広島高等裁判所 昭和29年(う)580号 判決
原判決が本件につき、被告人を懲役一年に処し未決勾留日数中六〇日を右本刑に算入する旨言渡したことは所論のとおりである。そして記録並びに当審において提出された広島地方検察庁検察事務官豊田文雄作成の「控訴理由発見についての報告書」と題する書面の記載によると、被告人は本件窃盗罪により昭和二七年三月一三日勾留状の執行を受け広島拘置所に勾留され同月二六日保釈により一旦釈放されたが、その後逃亡し所在不明となつたため、同年七月七日右保釈は取消されるに至つたところ、その後被告人は大阪拘置所に拘束されていることが判明したので昭和二九年六月二日右保釈取消に基く収監により再び広島拘置所に収容されたのであるが、その間被告人は昭和二九年二月二日大阪簡易裁判所において窃盗罪等により言渡された懲役一〇月及び罰金二万円(未決通算七〇日、罰金不完納の場合の換刑処分一日二百円の割合)の刑が確定し、右同日より同年九月七日までは右懲役刑の執行を受け、更に罰金不完納による換刑処分執行のため引続き原判決の言渡まで広島拘置所においてその執行を受けつつあつたものであることが認められる。そして右懲役刑等の執行と前記保釈取消による収監後の未決勾留とは、観念上は併存するとしても事実上は一個の拘禁のみが存在するに過ぎないのであるから、かかる場合重複する部分の未決勾留日数を本刑に算入することは結局二個の刑が同時に行われる不合理を招来し且つ不当に被告人に利益を与える結果を生ずるが故に不当且つ違法であるといわざるを得ない。尤も原判決が右のように未決勾留日数を算入するに至つたのは、偏えに原審検察官において当時右刑の執行状況等を明らかにしなかつたが為によるものであつて、原審としては記録上も到底これを知るに由がなかつたものであるから、この意味において原審の措置には何等過誤はなかつたと言い得るのであるけれども、当審において右の事情が明らかにされたことに因り、右は違法の措置となつたのであり、且つ右の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから原判決は破棄を免れない。論旨は結局理由があるに帰する。
(裁判長裁判官 石坂修一 裁判官 尾坂貞治 裁判官 石見勝四)